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映画 カティンの森(2007ポーランド) [日記(2012)]

カティンの森 [DVD]
 息詰まるような映画です。ソ連のカティンの森でポーランド兵が虐殺された事件は知っていましたが、映画を見て改めてこの事件を考えると暗澹たる気持ちになります。ドイツとソ連に国土を蹂躙された当時のポーランドを思うと、祖国があり主権があるということは、如何に幸せなことなのかと思います。

 映画は、1939年のナチス・ドイツのポーランド侵攻とドイツ、ソ連によるポーランド分割占領から始まります。裏には独ソ不可侵条約があり、ヒトラーとスターリンは、ウチとオタクでポーランドを半分ずつしようと云うわけです。野郎自大も極まると云うことです。

 この時、ソ連は占領した地区の将校や役人、聖職者、学者などの知識人を根こそぎ収容所に入れてしまいます。おまけに、1万人(最終は2万人?)以上をスモレンスク郊外の森で虐殺してしまいます。
何故こんなことが起こったのか?。主人公の一人であるに アンジェイ大尉(アルトゥル・ジミイェフスキ) に語らせています。将校は、戦車や飛行機のように簡単には作れない、と。また、収容所でポーランド軍の大将は、こう言います。何があっても生き残れ、生き残って、ヨーロッパ地図に再びポーランドと云う国を甦らせよう、と。
 ポーランドを占領したソ連にとって、ポーランド軍の将校や、ポーランドと云う国を動かす知識人は要らないわけです(赤軍と共産党がいる)。むしろ、抵抗運動の温床となるこれらの人々は邪魔なわけです。
ポーランド軍大尉であるアンジェイ、その父親で大学教授のヤンが殺されるのは、そうした背景があるわけです。

 1943年、独ソ戦でソ連に侵攻したドイツ軍によって虐殺が明るみに出ます。ナチス・ドイツは、格好の反ソキャンペーンとして遺体を発掘し事件の全貌を明らかにします。ひとりひとりの身元を確認し犠牲者を明らかにするという徹底ぶりだったようです。犠牲者の中にアンジェイ大尉の名前は無く家族は安心していますが、戦後になってアンジェイ大尉にセーターを貸した中尉が家族を訪問し、セーターに記された名前から、犠牲者
名が自分と入れ替わってしまったことを告白しています。後に、アンジェイ大尉の日記帳が家族の元に還り、大将が付けていた勲章が夫人に手渡されます。ドイツ軍の調査が徹底していた為、こう云ったドラマがあり得たんでしょうね。

 ドイツは「カティン虐殺事件」の犯人としてソ連を非難し、ソ連はドイツ占領地だから犯人はオマエだと非難合戦。ドイツ軍を追い出したソ連は事件の再調査を行い、戦争終了後はドイツは敗戦国ですから、何でもかんでも悪者にされてしまいます。数百万のユダヤ人を虐殺したナチスと100万人の大粛清(死刑)を行ったソ連共産党が、オマエは虐殺者だとお互いを避難するわけです。
 映画には、虐殺現場の発掘調査を撮影した当時のフィルムが随所に挟み込まれ、後ろ手に縛られたポーランド将校が後頭部を拳銃で撃ち抜かれる虐殺シーンが描かれます。ワイダ監督の執念とも言える映像です。

 『カティンの森』のもうひとつの悲劇が戦後のポーランドです。ポーランドはワルシャワ体制に組み込まれますから、虐殺事件について表立ってソ連を非難できません。虐殺がソ連によって行われたことは、ポーランド人なら誰でも知っていますが、事件の真実を口にしたポーランド市民は逮捕され投獄されるため誰もが口を閉ざします。そして、虐殺事件は、戦後も生き残った人々に暗い影を落とします。

 虐殺事件がドイツ軍によって起こされたことを認めて生き延びたイェジ中尉(アンジェイ・ヒラ)は、祖国を裏切った自責の念に耐えきれず自殺を図り、カティンで殺された大将の未亡人ルジャ(ダヌタ・ステンカ)は、夫がドイツ軍によって虐殺されたという誓約書に署名を求められてこれを拒否。カティンで兄を殺されたアグニェシュカ(マグダレナ・チェレツカ)は、カティンの犠牲者であることを記した墓石を作り警察に逮捕されます。アンナの甥は父親がカティンで犠牲になったことを親履歴に書き、書き直しを拒否して美術学校の入学を取り消されます。
 戦争が終わり、ヨーロッパ地図に「ポーランド人民共和国」が書き加えられた後も、アンジェイ大尉の妻アンナ(マヤ・オスタシェフスカ)を中心に「カティン虐殺事件」の影が廻ります。

 アグニェシュカはまた「ワルシャワ蜂起」(1944)にも加わったことが触れられています。「ワルシャワ蜂起」は、ナチ占領下のワルシャワで起きたポーランド国軍と市民による反乱です。ソ連が後ろで糸を引いていますが、扇動するだけで支援せず傍観を決め込みます。結局火力で劣るポーランド国軍は壊滅し、20万の犠牲者を出します。
 ソ連とドイツに分割占領されたポーランドに何故国軍があったのか?、このポーランド国軍は、ロンドンの亡命政府の支配下にあるレジスタンス組織だそうです。ポーランド政府はドイツとソ連の侵攻を逃れてロンドンに亡命政府を樹立したように、反独とともに反ソでもあるわけです。戦後、反ソビエトの亡命政権の軍隊を認めるわけにはいかないと(国内には傀儡政権がある)、ポーランド国軍(レジスタンス)を解体し弾圧します。
 ソ連は、東部戦線ではポーランド国軍将校を虐殺し、西部ではドイツと戦わせて挙げ句の果てに潰してしまうという挙に出たわけです。
 アグニェシュカは「ワルシャワ蜂起」でドイツと戦い、今また、カティンで虐殺された兄を弔うためにソ連と戦うというポーランドの象徴でもあるんでしょう。

 冒頭のアンジェイを探すアンナ母娘のエピソードが印象深いです。娘がアンジェイが着ていた様なポーランド国軍の軍服を見つけます。アンナがその軍服をめくって見ると、軍服の下から現れたのは十字架から降ろされたキリスト像だったという象徴的シーンです。
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軍服の下から現れたキリスト
 
 『カティンの森』を見て、大国に蹂躙されるポーランドに心を痛め、虐殺を犯したソ連に憤りを感じますが、日本帝国も日韓併合(1910)で他民族を支配下に置き、他国に傀儡国家・満州国(1932)を築くというソ連に似たような事をしています。

 それにしても、80歳を超えてなお『カティンの森』で祖国と祖国に殉じた人々を描くアンジェイ・ワイダの執念は凄まじいものです。薦めです。

監督:アンジェイ・ワイダ
出演:マヤ・オスタシェフスカ アルトゥル・ジミイェフスキ

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コメント 5

rudiesgirl

アンジェイ・ワイダ監督の作品は灰とダイヤモンド、
ナスターシャしか観た事無くて(^_^;)

「カティンの森」とても興味深く
是非とも観たくなりました。

ありがとうございます。
by rudiesgirl (2012-12-14 13:14) 

べっちゃん

是非、見て下さい。わたしは、『パリ、テキサス』を探してみます。
by べっちゃん (2012-12-14 19:55) 

月夜のうずのしゅげ

公開の時もDVDになってからも、なかなか見る気力と覚悟がなくそのままにしていました。近いうちに見てみます。
by 月夜のうずのしゅげ (2012-12-15 09:19) 

べっちゃん

映画としての完成度より、アンジェイ・ワイダ執念の一作ですね。
こういう映画を見てナショナリズムを刺激されて、思わず保守に一票と云うことになりかねません(笑。
by べっちゃん (2012-12-15 11:34) 

ポルポルポルポト

満州とポーランド侵攻は全然ちゃいますがな・・・
by ポルポルポルポト (2017-06-10 16:19) 

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