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堀栄三 大本営参謀の情報戦記 [日記(2014)]

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)
 保阪正康の『瀬島龍三―参謀の昭和史』に、参謀本部作戦課の瀬島が、同じ参謀本部情報課の堀栄三が発信した「台湾沖航空戦」の戦果に疑義をはさむ電報を握り潰す話があります。この堀が著した『大本営参謀の情報戦記』を読んでみました。同書は、1989年の出版で、当時の軍人の手記としては最も新しいものです。多くの太平洋戦の記録が公表され、戦後40年経って書かれたものですから、(意図せずに)自分の記憶を事実に沿って再編成するという危険はあります。研究者ではないので、そういう検証は保阪さんに任せておき、こちらとしては面白ければイイわけです。・・・期待に違わずなかなか面白いです。

 ひとことで言うと、太平洋戦争は、総論ではアメリカの国力を正当に評価できず、各論では情報の収集分析に十分でなかったことが敗戦の原因だという、ごく当たり前の話です。当たり前の話を、参謀本部第2部の情報参謀、第14方面軍(フィリピン方面軍、司令官・山下奉文の)参謀として、現場に身を置いた「諜報戦」の話は説得力があります。

 件の「台湾沖航空戦(1944年10月12~16日)」です。6月のマリアナ沖海戦で制海権、制空権を半ば失い、生命線である「絶対国防圏」が危機に瀕します。日本軍は、陸海軍の残存勢力を使って起死回生の作戦「捷号作戦」を展開します。このために、満洲にいた山下奉文を司令官として起用します。山下は、ルソン島で連合軍と戦う約束でフィリピンに行ったわけですが、大本営は当初の作戦を変更してレイテ島で連合軍を向かい撃つことになり、結果大敗します。このレイテ沖海戦(1944年10月23~25日)敗北の要因を作ったのが、その前哨戦とも云うべき「台湾沖航空戦」です。
 
 大本営による「台湾沖航空戦」の戦果は、「轟撃沈 航空母艦7隻 駆逐艦1隻、撃破 航空母艦1隻 戦艦1隻 巡洋艦1隻」というすさまじいもので、米艦隊の主力を葬ったいうものです。この時、堀は鹿児島経由でフィリピンに出張の途上で、この「戦果」に出会います。疑問に感じた堀は、航空戦の主力部隊の基地である鹿屋に飛び、事の真偽を確かめますが、これが誤報である確信を持ちます。本書では、「勘」という以上にその根拠は示されていません。
 米主力艦隊が壊滅したと信じた大本営は「捷号作戦」の作戦地をレイテに変更し、堀の「誤報説」を信じた山下は中止を求めますが、上級部隊である南方軍は大本営の命令に従います。

 壊滅したはずの米主力艦隊がレイテに現れ(「台湾沖航空戦」の損害は重巡洋艦 2隻大破のみ)、日本海軍は戦艦武蔵まで失って大敗を喫し、レイテ島の戦死者は8万名におよびます。

 台湾沖航空戦の大戦果に酔った作戦課は、「今こそ海軍の消滅した米陸軍をレイテにおいて殲滅すべき好機である」と、ルソン決戦からレイテ決戦へ急に戦略の大転換行ってしまった・・・航空戦の誤報を信じて軽々に大戦略を転換して、敗戦へと急傾斜をたどらせた一握りの戦略策定者の歴史的な大過失であった。

 オレの打った電報を吟味していればこんなことにはならなかった筈だ。それ以上に、現場に来ようともせず、机上で兵士の命をもてあそぶように作戦を立てる戦略策定者=作戦参謀を非難しています。堀の電報を握り潰し、レイテ決戦へと戦略のかじを切り、多くの将兵を失った責任は誰だ、ということです。ちなみに、この時の作戦課の作戦参謀のひとりは、瀬島龍三です。
 ただ、「捷号作戦」が発動されたと同時に勘に頼った「誤報電報」が届いても大勢は覆せず、「今更」と握り潰すに至ったことは十分想像されます。

 本書の内容は、「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」に尽きます。しかしながら、自己肥大と神がかり的ロマンティシズムを宿痾とするわが民族に、孫氏の兵法の実践は難しいでしょうね。
 私が読んだのは1996年に文春文庫となったものですが、すでに22刷を重ねています。この手の本としては異例のことで、人気のほどが伺われます。 

タグ:読書 昭和史
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コメント 2

cocoa051

瀬島龍三を抜きにして戦後の歴史は語れないとも言いますが、いまの日韓関係も彼のような人がいれば何かの知恵も浮かんだかも知れませんね。

by cocoa051 (2014-04-07 17:59) 

べっちゃん

瀬島龍三は引き受けないと思います。「歴史認識」では張本人として火だるまになりそうですから。
by べっちゃん (2014-04-07 19:58) 

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