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手嶋龍一  『ウルトラ・ダラー』 [日記(2014)]

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)
 杉原千畝の「命のビザ」によって生き延びたユダヤ人とデリバティブ取引を描いた、『スギハラ・サバイバル』が面白かったので、読んでみました。バカバカしい話なのですが、古本の『ウルトラ・ダラー』を買って、途中まで読んでいて「アレッ」 →本棚にもう1冊『ウルトラ・ダラー』がありました。おまけにblogに感想まで書いていますから、目も当てられません。それほど記憶に残らない小説だったということですかね(それとも頭の老化?)。

 要は、北朝鮮の偽札の話です。主人公はBBCラジオの日本特派員を隠れ蓑とする、英国諜報員のスティーブン・ブラッドレー。スティーブンを救けるのが、米財務省のシークレットサービス、マイケル。このふたりを中心に、日本の外務官僚、官房副長官、偽札検知機メーカーの社長にIT企業の開発者がからみ、北朝鮮 VS. 007の戦いが描かれます。

 浮世絵や篠笛と日本趣味たっぷりで、セレブな女性が和服でおっとり構え、得意のサラブレッドの入札にクラシック・レースとサービス満点のエンターテイメントです。佐藤優がインテリジェンス小説と絶賛する 『ウルトラ・ダラー』は、つまるところは国際的謀略組織と戦うスパー・ヒーローの物語で、イアン・フレミングの書いた007と変わるところはありません。スティーブンを飾るものも、女性、美食、車、ファッションとボンドと一緒。作者が日本人ですから、これに日本趣味を加えてオリエンタルムードを出します。

 ひとつだけ光る箇所があります。元外務官僚の官房副長官は、太平洋アジア局長と北朝鮮の間に密約があるのではないかと疑い、局長の公電を調べるくだりです。副長官によると、

歴史への畏れを抱いた外交官だけが、組織内の栄達や目先の政治情勢に足をとられることなく、筋の通った交渉をやり遂げる。その志が公電のかたちをとって歴史に刻まれてゆく。

ところが、局長の公電は全く見当たらないのです。

外交の軌跡を公電という形で記録に残さなくていいのなら、後世の批判を恐れることなく、恣意的な交渉に身を委ねればいい。

と局長を批判します。さすが外交ジャーナリスト手嶋龍一さんです。交渉の現場では、国益の大義名分のもとに「沖縄返還密約」のような相当怪しい取引が行われているのでしょう。北朝鮮との交渉で囁かれる「ミスターX」との外交文書も残っているのでしょうか、ということが言いたいのかもしれません。
 公電を残さないというとことと共に、「公電握り潰し」というのもあります。ヤルタ会談の密約(小野寺信発)台湾沖航空戦(堀栄三発)の公電を握りつぶした大本営参謀を、つい連想してしまいます。
 全体に軽い『ウルトラ・ダラー』ですが、何故かこの件だけは妙に生々しいです。

 で面白いかというと、北朝鮮、偽札、拉致、ICタグと情報量が多いので楽しめます。それなりに面白いですが、3年経てば読んだことも忘れてまた本を買ってしまうという面白さです(笑。
 手嶋サン、次は女性も美食もファッションも書かず、フレデリック・フォーサイスのような本格的な「インテリジェンス小説」を期待しています。

タグ:読書
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