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高橋和巳 邪宗門 [日記(2017)]

邪宗門 上 (河出文庫)邪宗門 上
 京都府中央の盆地・神部に本拠を構える新興宗教《ひのもと救霊会》の(宗教)弾圧の物語です。昭和6年、救霊会は、不敬罪、治安維持法、新聞紙法違反自殺幇助の罪状で官憲の捜査が入り、本殿をダイナマイトで爆破され、教主以下9人が拘束されます。

 1929年に始まった世界恐慌は日本に深刻な不況をもたらし、生糸、米の暴落、折から重なった冷害により農村は壊滅的打撃を受けます。都市には失業者があふれ、農村では飢餓と女子の身売りが常態化するという昭和恐慌と言われる時代です。怨嗟は、時の為政者、金融資本に向かい、血盟団事件、五一五事件の引き金となります。一方、15年に及ぶ日中戦争の始まりとなる満州事変が昭和6年9月に起こり、昭和7年には満州国が建国宣言されます。
 こうした社会不安のなかで、独自の終末論と《世直し》論を持ち急成長する新興宗教「大本(教)」は、危険結社として弾圧をうけます。『邪宗門』は、この「大本(教)」をモデルにした《ひのもと救霊会》と国家による弾圧を舞台に、東北の飢饉を生き延びた千葉潔、救霊会教主・行徳仁二郎、その娘阿礼、阿貴、五・一五事件を企てる植田文麿などを配し、教団受難と敗戦を契機としたカタストロフィを描きます。国家とは、宗教とは、人間とは何かを鋭く問います。

【ひのもと救霊会】
 救霊会の開祖・行徳まさは、明治中ごろ夫と死別し再婚させられた高利貸の夫に家を追われ、六人の子供に先立たれ背かれて後、突如「神がかり」も状態になります。

六人の子を生んで、四人に先立たれ、残った子にも背かれた母親の命に何の意味がありだろうか、と。なぜ長男は戦死したのか。なぜ長女は娼婦になり病毒におかされて死んだのか。なぜ次男は行方知らずになったのか。なぜ次女は地主の納屋で首をくくったか。なぜ三女は末っ子を餓死させたのか。

と、行徳まさ(出口なお)は奇妙な問を投げかけ、天理教、キリスト教、寺社の門を叩きます。やがて人の悩みを射当て、病いを癒す祈禱師となり、貧しい農民を中心に”まさ”を囲む誓約共同体が形成されます。やがて仁二郎(出口王仁三郎)が加わり信者を組織化し、《ひのもと救霊会》が誕生します。

【六終局】
 この救霊会の弾圧とそれに続くカタストロフィのために、様々な教義が用意されます。なかでも「六終局」というキリスト教の黙示録のような終末論が、小説のバックボーンであり中核です。

最後の一人に到る最後の殉難
最後の愛による最後の石弾戦
最後の悲哀を産む最後の舞踏
最後の快楽に滅びる最後の飲酒
最後の廃墟となる最後の火の玉

宇宙一切を許す最後の始祖(の出現)

最後の殉難以下五つの終局の後に最後の始祖が現れて「世直し」を行うわけです。『邪宗門』は、五つの終末と最後の始祖の出現(と崩壊)を描いた”世直し”の物語ということになります。「大本教弾圧事件」を下敷きにした、高橋和巳の一抹の夢というわけです。

【弾圧】
 大元帥も人の児、馬喰もまた人の児、という平等思想を持ち、信者の農地を共有化する救霊会は、国家と鋭く対立します。不敬罪、治安維持法違反容疑で教主・仁二郎と幹部は逮捕され、拝殿はダイナマイトで破壊されます。これが六終局の「最後の殉難」にあたるのでしょうか。

 私有財産制度ヲ否認スル目的ヲモツテ教徒ニソノ農地オヨビ一切ノ私有財産ノ寄進ヲ強要シテ、共同農耕ヲ初メトスル諸種ノ組織・施設ヲ形成シ・・・
 『神無為論』ナル論文ヲひのもと新聞ニ連載シ、古来ノヤオヨロズノ神、アマタ数アル菩薩ノ類ハ、タダ暗示ニヨリテ民ヲ導クモノニシテ、神ハ本来無為、世ナオシハヒタスラ人ノ作為ニヨルト説キテ、工場労働者ヲ煽動(予審決定書)

 『神無為論』とは、神は人を救済せず神の国ももたらさず、神は何も為さない。神は啓示によって人を導くのみ、という考え方です。恩恵の宗教ではなく行為の宗教と言えます(神が人を救済しないのであれば、「沈黙」の問題など起こりようもない)。
 門外不出の「奥義書」というのも凄いです、

貧者とは何ぞや、支配される者なり
支配とは何ぞや、悪業なり
悪業とは何ぞや、欲望なり
欲望とは何ぞや、無明なり
無明とは何ぞや、執着なり
ああ、如何にして執着をのがれんや、ただ信仰によってのみ
信仰とは何ぞや、救済なり
救済とは何ぞや、死なり
死とは何ぞや、安楽なり 

 高橋和己の作り出した《ひのもと救霊会》はまさに「淫祠邪教」です。宗教が国家の対立の間で、高橋和己はどんな妄想を育て上げたのか?。ちなみにこの小説は、1965年1月~1966年5月末、朝日ジャーナルに連載されました。


タグ:読書
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