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井上章一 京都ぎらい [日記(2017)]

京都ぎらい (朝日新書) 京都ぎらい (朝日新書)

 大阪は嫌いだが京都は好き、という人は多いと思います。何しろ人気都市ランキングで2014、15年二年連続世界第一位の京都ですから。その京都を「嫌い」と言うのですからけっこう勇気がいります。そう言う本人はというと、京都生まれ京都育ち京都在住の井上章一センセイ(国際文化センター教授)。何故京都がきらいかというと、嵯峨(京都西郊)で育ち宇治に住む井上センセイは、杉元秀太郎(仏文学者でエッセイスト)、梅棹忠夫(民族博物館創始者)の両センセイにアンタは京都人ではないと言われてしまったからです。

「君、どこの子や」  たずねられた私は、こたえている。 「嵯峨からきました。釈迦堂と二尊院の、ちょうどあいだあたりです」  この応答に、杉本氏はなつかしいと言う。嵯峨のどこが、どう想い出深いのか。杉本氏は、こう私につげた。 「昔、あのあたりにいるお百姓さんが、うちへよう肥をくみにきてくれたんや」・・・そこに揶揄的なふくみのあることは、いやおうなく聞きとれた。嵯峨の子か、田舎の子なんやなと、そう念をおす物言いであったことは、うたがえない。私は、はじめて出会った洛中でくらす名家の当主から、いけずを言われたのである。

杉本センセイは、300年続く老舗にの当主にして町家として有名な杉本家の住人。さらに、西陣で生まれ育った梅棹センセイに尋ねます、

 先生も、嵯峨あたりのことは、田舎やと見下したはりましたか」  あまりためらいもせず、西陣で生まれそだった梅棹氏は、こうこたえてくれた。 「そら、そうや。あのへんは言葉づかいがおかしかった。僕らが中学生ぐらいの時には、まねをしてよう笑いおうたもんや。じかにからこうたりもしたな。杉本秀太郎がそんなふうに言うのも、そら、しゃあないで」

 この京都の住人を洛中と洛外に分ける京都の中華思想を知って、著者は生まれ育った京都が嫌いになったわけです。またこんな話も引き合いにだします。三十路近くになった老舗のお嬢さんの縁談の話です、

「とうとう、山科の男から話があったんや。もう、かんにんしてほしいわ・・・山科なんかいったら、東山が西のほうに見えてしまうやないの」 

私は、洛中から見下されてきたことへの反発を気持ちのささえにして、これを書いている。洛外生息の劣等感が、執筆の原動力となっていることは、たしかである。祇園祭は洛中の、町衆がいとなむ祭であり、嵯峨の田舎者なんかはかかわれない。お前たちがくらす洛外と洛中のあいだには、深くて暗い溝がある。肝に銘じておけ、というように。

 とまぁこんな具合で、著者の京都きらいは始まったようです。井上センセイは、袈裟姿で祇園のお茶屋やキャバクラで遊ぶ僧侶を斬り、1985年の古都税を斬り、ウップンを晴らします。面白かったのは、「庭園秘話」。

 室町時代の京都では、武将たちの一行をうけいれる寺が、ふえだした。人目をよろこばせる庭が、寺でいとなまれるようになったのは、そのせいだろう。武将らの接待という新しいつとめが、庭の美化をおしすすめたのだと思う。ホテルとしてのサーヴィス機能が、それだけ高まったということではなかったか。

 龍安寺を始めとする観光寺院の「庭」は、禅思想の具現化でも何でも無く、ホテルのサーヴィス機能として発達した、同様に精進料理も武将に供するために洗練を極めたというのです。なるほど。

 で、京都の虚飾を次々に剥ぐのかと思いきや、一転して著者の育った”嵯峨”=洛外礼賛?となります。南北朝に至る大覚寺統の歴史です。嵯峨には院政時代には御所もあった、「平安京の副都心」や!。           

京都人たちがえらそうな顔をしていられるそのよりどころは、けっきょく歴史にある。嵯峨あたりを軽んじられるようになったのも、千年の都という中華思想のせいである。だが、王朝をいろどった歴史の跡なら、嵯峨にもいっぱい横たわっている。いや、平安京以前の、秦氏の入植にまでさかのぼれる歴史が、嵯峨にはある。そうや、歴史や。歴史を盾にとるんやったら、嵯峨かて負けてへん。京都人ばっかりに、いばらせたりはせえへんぞ…。こんな想いも、どこかでは私をつきうごかしていただろうか。

 間違いなく「つきうごかしていた」と思います。ここに至って、井上センセイは杉本センセイ、梅棹センセイの同類だと白状してしまいます。「京都ぎらい」と言いつつ、本書は逆説的”京都礼賛”に他なりません。

 著者・井上章一センセイは時折TVに登場されます。先日、NHKの「英雄たちの選択」に登場され、京都弁で珍説を披露されていました。70年代風の長髪の風貌とその珍説は、まことに愛すべきものがあります (笑。

タグ:読書
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