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浅田次郎 天子蒙塵 第一巻 [日記(2018)]

天子蒙塵 第一巻 天子蒙塵 第一巻  『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』のシリーズ続編です。「天子蒙塵」とは、天子が塵をかぶって逃げ出す謂いで、清国最後の皇帝・愛新覚羅溥儀が廃帝となって紫禁城を追われることを指します。シリーズは『天子蒙塵』に至って満州国皇帝・溥儀が登場し、舞台は満州、日本の昭和史が描かれることになりそうです。

 新聞社の北京特派員・北村は、大学の恩師・梁文秀を探すうちに、文秀と同じ音の小学校教師、文繍と出会うこととなります。文繍とは、愛新覚羅溥儀の第二夫人・文繍のことで、北村は数奇な人生を歩む文繍を取材し始めます。北村はつてを求めて文繍にインタヴューします。この「つて」というのが、『蒼穹の昴』の主人公・李春雲(春児)で、インタヴューの聞き役でもあります。第一巻は、この文繍を語り手として、紫禁城からの退去、天津日本租界内「張園」での亡命生活、天津脱出が描かれます。

 愛新覚羅溥儀については、映画『ラストエンペラー』を観ればだいたい分かります。わずか2歳で清の皇帝となり、辛亥革命によって6歳で退位。紫禁城に軟禁され、後紫禁城を追い出され、日本の傀儡国家満州帝国の皇帝となります。日本の敗戦によってソ連の捕虜となり、後中華人民共和国で一市民となって61歳で亡くなります。数奇と言う他はない一生です。

 溥儀は17歳で婉容を皇后、文繍を第二夫人として迎え、以後25歳で長春に脱出するまで「妻妾同居」の生活が続きます。この文繍によって溥儀が語られることになります。若い溥儀にとって、妻と妾両方に気を使う「妻妾同居」の生活もそれなりに気苦労のある生活だったというところが面白い。

 かつて皇帝であったとはいえ、6歳で退位していますから、皇帝としての権威権力行使したことはなく、退位の後は清室優待条件による莫大な財産と、ふたりの妻と召使いにかしずかれて安逸な生活を送る遊民だったようです。その遊民振りが文繍によって語られますが、長編『天子蒙塵』の序論ですからそんなに面白いわけではありません。文繍と溥儀の離婚の経緯が語られ、李春雲の他、戊戌の変法で姿を消した梁文秀とその妻で春雲の妹・玲玲が登場し、『蒼穹の昴』以来の読者の興をそそる程度です。
 第二巻からいよいよ満州帝国です。

タグ:読書
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島崎藤村 夜明け前 第一部(上) [日記(2018)]

夜明け前 (第1部 上) (新潮文庫) 夜明け前 01 第一部上  坂野潤治、大野健一の『明治維新』によると、明治維新を準備したものは成熟した江戸社会であり、政治経済的成熟とともに教育の普及や富裕な商人層の台頭も重要な因子であるとのことです。そうした富裕層や地方の読書階級が支えた「国学」は、尊皇攘夷思想に影響を与え、維新の原動力になります。
 幕末から明治を舞台に、中山道、馬籠宿の当主・青山半蔵を主人公にしたは『夜明け前』は、格好のテキストになるのではないか、小説ですが「気分」として幕末~明治の富裕知識層の姿を写しているのではないか、と思われます。

馬籠宿
 参勤交代の他、彦根 より大老就職のため江戸の任地へ赴く井伊掃部頭、江戸より老中・間部下総守、 林大学頭、監察・岩瀬肥後守、等々が馬籠本陣に泊まり休息します。

 将軍 上洛 の日も近いと聞く新しい年の二月には、彼は京都行きの 新撰組 の一隊をこの街道に迎えた。一番隊から七番隊までの列をつくった人たちが雪の道を踏んで馬籠に着いた。いずれも江戸の方で 浪士 の募集に応じ、尽忠報国をまっこうに振りかざし、京都の市中を騒がす 攘夷 党の志士浪人に対抗して、幕府のために粉骨砕身しようという剣客ぞろいだ。一道の達人、諸国の脱藩者、それから 無頼 な放浪者なぞから成る二百四十人からの群れの腕が馬籠の問屋場の前で鳴った。

清川八郎の浪士組までが馬籠を通過します。半蔵と近藤勇の会話でもあると面白いのですが、さすがそういうサービスはありません。
 飛脚や荷を積んだ牛馬が行き交う宿駅が、如何なる存在であったかがよく分かります。ペリーの来航は日ならずして伝わり、大砲を曳いた一団が通り、長崎奉行に命じられ水野筑後一行が本陣に宿泊し、馬籠に様々な情報をもたらします。宿駅は、物だけではなく情報の集散基地でもあったようです。宿駅を預かる半蔵も父親の吉左衛門も行政の末端に連なる身分ですから、井伊掃部頭や老中・間部下総守と直接話すことはなかったにしてもです。

助郷
 助郷とは、幕府が参勤交代などの折り、人足や馬を宿場周辺の村々から徴発する「夫役」のことです。例えば、尾張藩主の江戸出府に際しては、

 木曾 寄せの人足七百三十人、 伊那 の 助郷 千七百七十人、この人数合わせて二千五百人を動かすほどの大通行が、三月四日に馬籠の宿を経て江戸表へ下ることになった。宿場に集まった馬の群れだけでも百八十匹、馬方百八十人にも上った。
 黒船の渡って来た嘉永年代からは、諸大名公役らが通行もしげく、そのたびに徴集されて 嶮岨 な木曾路を往復することであるから、自然と人馬も疲れ、病人や死亡者を生じ、 継立てにもさしつかえるような村々が出て来た。

 幕末になると往来が激しくなり、この助郷が村落の負担となってきます。庄屋を動かし、馬籠、妻籠など連名で幕府に助郷減免の嘆願書を差し出します。

 徳川様の御威光というだけでは、百姓も言うことをきかなくなって来ましたよ

 木曽の片田舎でも「徳川様の御威光」は確実に衰えてきたわけです。

神奈川条約
 「神奈川条約」によって横浜が開かれ、国際化の波は木曽の奥深い宿場まで押し寄せます。開港による大幅な輸出超過によって国内の物資は不足し、金銀交換比率が世界水準に比べ大幅に銀高だったことにより金が流出し、庶民の暮らしにインフレーションが直撃します。

 銭相場引き上げの声を聞き、さらにまた 小判 買いの声を聞くようになった。古二朱金、保字金なぞの当時に残存した古い金貨の買い占めは地方でも始まった。きのうは馬籠 桝田屋 へ 江州 辺の買い手が来て 貯え置きの保金小判を一両につき一両三分までに買い入れて行ったとか、きょうは中津川 大和屋 で百枚の保金小判を出して当時通用の新小判二百二十五両を請け取ったとか、そんなうわさが毎日のように半蔵の耳を打った。金一両で二両一分ずつの売買だ。それどころか、二両二分にも、三両にも買い求めるものがあらわれて来た。

 中津川の商人は、横浜の外国商人に生糸百匁が一両で売れることを知り、生糸を集めにかかります。百匁一両が後に六十匁一両まで高騰しますから、国内の相場も上昇。生糸の他、漆器、茶、油、銅などが輸出され、品不足に陥った国内では物価が上昇します。

 銭相場引き上げに続いて、急激な諸物価騰貴をひき起こした横浜貿易の取りざたほど半蔵らの心をいらいらさせるものもない。

と半蔵を嘆かせます。

国学
 半蔵は、11歳で『詩経』の句読を受け、13歳のころ、父について『 古文真宝』の句読を学び、『 四書』を読み、15歳で『易書』や『春秋』の類 にも通じるようになります。15歳で儒教の古典である「四書五経」を読んでいたことになります。父吉左衛門から和算を習い、漢学だけではなく数学まで習得します。

 さらに、半蔵の興味は「四書五経」を批判的に捉えた国学に及び、木曽谷の友人とともに中津川の医師・宮川寛斎からこれを学びます。当時、国学は洋学と並ぶ新思潮であり、朱子学に飽きたらない若者を引き付けたものと思われます。国学は、平田篤胤によって復古神道という宗教色の強いイデオロギーとなり、西洋列強の圧力を憂う人々のナショナリズムに火をつけます。半蔵は、後に平田篤胤の後継者・平田鉄胤に弟子入りし正式に国学の徒となります。

 中津川、馬籠など木曽の読書階級の間では、国学研究の勉強会が催され、平田鉄胤『古史伝』三十一巻の出版までも計画されるという国学ブームが起きます。勤王を志す鉄胤が京都に居を移すと、半蔵の国学の同志で中津川本陣の香蔵、景蔵など鉄胤の後を追う者も現れます。近藤勇や土方歳三は豪農、吉村寅太郎は庄屋、清川八郎は郷士の出ですから、本陣の息子が京都に走っても不思議はありません。時代は、危機意識を持った富裕の読書階級も国事に走る気分の中にあります。
 病身の父と本陣、庄屋、問屋の職務を抱える半蔵は、馬籠を捨てることができず鬱々とした日々を過ごすことになります。

 坂本龍馬や西郷隆盛など維新の英雄が登場する小説は数多く読んできましたが、無名の庶民の幕末維新もなかなか面白いです。助郷のエピソード、横浜開港が木曽谷まで影響を及ぼすエピソードは新鮮です。

タグ:読書
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絵日記 ドクダミ茶 [日記(2018)]

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 庭の草むしりのついでに、ryangさんのサイトにあった「ドクダミ茶」を試したみました。ryangさんの郷里では、小学生の水筒の中身は麦茶半分ドクダミ茶半分というほど、ドクダミ茶はポピュラーな存在だそうです。以前に試してみましたが、別に美味しいわけでもないので、夏はもっぱら水だし緑茶です。
 庭の草むしりで出たドクダミを選り分けて水洗い乾燥。連日の猛暑でカラカラになります。陶器の鍋がいいそうですが、アルミ鍋で15分ほど煎じました。冷まして氷で割ってみました。乾燥することでドクダミ独特の臭気が無くなります。ちょっと日向臭い香りですが、麦茶の代用にはなりそう。ハーブティーですね。「焼酎のドクダミ割り」なんかいいのでは?。なんとなく身体によさそう(笑。

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映画 ロリータ(1997米) [日記(2018)]

ロリータ (1997) <期間限定生産版>  ロリコン(ロリータ・コンプレックス)の語源となったウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』です。映画は、1962年のスタンリー・キューブリックのものと、1997年ものがあり、今回見たのは後者。

 大学教授ハンバート(ジェレミー・アイアンズ)は、下宿を探しで未亡人シャルロットを訪ね、娘のドロレス(ドミニク・スウェイン)に出会います。コケティッシュなドロレス(ロリータ)の魅力の虜になり、下宿は即決定。中年のオッサンが、12歳の小娘の色香に惑う物語です。人間の性的嗜好は多様で、何が正常で何が異常かという問題の範疇外。映画では、14歳の頃に恋した少女を喪ったことがトラウマとなったと説明していますが、要はロリコン。問題は、その嗜好にのめり込んで人生を棒に振るか降らないかの差で、健全な常識はブレーキを踏み、のめり込むから小説に映画になります。

 ロリータを見てニヤニヤしているだけなら問題なかったのですが、母親のシャルロットがハンバートの中年の魅力の虜になり、ふたりはついに結婚します、娘に惹かれ母親と結婚したわけです。ハンバートはシャルロットに睡眠薬を飲ませ夫の義務を逃れるという笑えないエピソードも登場し、目的はロリータ一本。ロリータへの恋慕を綴った日記がシャルロットに見つかり、怒り狂った彼女は家を飛び出して車に跳ねられ死亡。母親という障害が取り除かれ、ハンバートの欲望は解放されます。
 問題のロリータです。身体は大人、頭は子供のロリータの意識しない嬌態、媚態は相当強烈で、ヘタなR指定映画よりエロティック。義理とはいえ父と娘ですから、これは禁忌。禁忌を破る切実さなどは微塵もなく、ロリータは奔放に振るまい、ハンバートはにひたすら翻弄され嫉妬します。

 焦点は、ロリータとハンバートの関係をどう決着つけるのか。これが映画の出来を左右する筈です。決着をつけるために、ふたりの回りをウロツク劇作家クィルティが登場します。クィルティは、ロリータと関係があるようですが何の説明もありません。インフルエンザで入院したロリータを叔父と偽って退院させ、彼女をハンバートから奪ってしまいます。

 数年?が過ぎ、ロリータから手紙が届きます。ロリータは結婚して妊娠、生活苦からハンバートに金の無心をしてきたのです。ハンバートはロリータに会いに行き、元の生活に戻るよう説得します。ロリータは最早中年のオッサンには興味はなく、かつて愛していたのはクィルティただひとりだったと告白します。ここでハンバートの内部で何かが壊れます。ハンバートはクィルティ殺害に向かうのですが、これがよく分からない。ロリータの庇護者で愛人を自認していたハンバートの矜持が崩れ、自分に向かう怒りがクィルティに向かった、としか思えません。
 ハンバートは殺人罪で捕まり獄死、ロリータはこれも出産で死にふたりの物語は終わります。中年のオッサンが、12歳の小娘の色香に惑う堕落と転落の物語、というほかはありません。結局”ロリータ”とは何だったのか?。”ロリータ”が、中年男の見果てぬ夢の再来であったとすれば、これはなかなか深刻なテーマです。

 おすすめというほどではありませんが、ドミニク・スウェインの媚態は一見の価値ありです(笑。

監督:エイドリアン・ライン
出演:ジェレミー・アイアンズ ドミニク・スウェイン

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映画 42 〜世界を変えた男〜(2013米) [日記(2018)]

42~世界を変えた男~ [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]  メジャーリーグ初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンと彼をドジャースに招聘したブランチ・リッキーの話です。メジャーリーグが黒人を締め出していたこと、1948年まで黒人だけのニグロリーグがあったことを初めて知りました。黒人を締め出すレストランがあり、バスの座席も黒人と白人が分かれていた国ですから、”国技”の野球が黒人を締め出していても何の不思議もありません。

 ドジャース(当時の本拠地はブルックリン)の会長ブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)は、ニグロリーグで活躍するジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)を将来のメジャーリーガーとして傘下の3Aロイヤルズに招きます。ブルックリンは黒人の多い地域として有名ですから、ドジャースで黒人が活躍すれば集客効果が期待できる、且つ白人以上に優秀な選手がおり他球団は目を付けていない、という球団経営上の戦略です。この戦略は、黒人が初のメジャーリーガーに上り詰める話より遥かに面白いです。
 業界初というものは当然抵抗があるもので、球団内部からはジャッキー排斥の声が上がり、コミッショナーが難色を示し相手チームは試合を拒否。白人の観客からはブーイングが起こり、相手チームのピッチャーからビーンボールを投げられる有様。ブランチ・リッキーはジャッキーを使い続け、ジャッキーも人種差別にめげずプレーを続け、チームメイトの信頼を勝ち取り白人のファンも生まれ、メジャーリーガーとしての地位を獲得します。よくある話です。

 ジャッキーも偉かったでしょうが、商売とはいえ使い続けたブランチ・リッキーの方が偉い!(笑。人種差別を描く典型のようなアメリカ映画です。『それでも夜は明ける』を見たときも感じたのですが、未だにこうした映画が作られヒットするのは、アメリカ白人社会の贖罪?なのでしょうか。
 野球が出てくる映画で思い出したのが、ケビン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』。玉蜀黍畑の農場主が、野球の神様の命じるまま畑を潰して野球場を作るファンタジーです。こちらの方が、人種差別の贖罪映画より遥かに感動的です。

監督:ブライアン・ヘルゲランド
出演:チャドウィック・ボーズマン ハリソン・フォード

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司馬遼太郎 歳月 (2) [日記(2018)]

新装版 歳月 (下) (講談社文庫)

続きです。
 司法卿としての江藤の活躍は目覚ましいものがあります。箕作麟祥やお雇い外国人を動員し、仏法典を翻訳して法律を作り、警察制度を整備し、法治国家の礎を築きます。作者は、新政府の顕官の資質を創造能力と処理能力に分け、(国家)創造能力を持っていたのは大久保利通と江藤ではないかと書きます。大久保は有司専制で国家の工業化を目指し、江藤は共和制を視野に法治国家を目指します。薩摩、佐賀ということもあるでしょうが、この国家構想の違いがふたりの不和の大元だったとします。

 維新の立役者、薩長の政権私物化は目に余るものがあり、何のための維新であったのかと考える江藤には、薩長の仲を裂き、薩摩によって長州を追い、その後に薩摩を叩いて「第二維新」を起こそうという野心が芽生えます。長州閥の山縣有朋が関わった山城屋事件、井上馨が関わった尾去沢銅山事件の疑獄事件が起き、司法卿・江藤は長州閥の追い落としを図ります。征韓論に賛成したことも「第二維新」を想定したいぇのことです。征韓論は当時の思潮であり江藤が支持しても不思議はありませんが、作者によると、征韓論に熱心な西郷を支持することで征韓論に反対する長州閥を牽制し、薩長の関係悪化を狙った、というわけです。西郷にしても、薩長の”驕り”を正すために日韓に戦争を起こすことによって「第二維新」を目指したのですから、同じようなもの。

 征韓論に破れた西郷、板垣は野に下り、江藤も参議・司法卿を辞任します。この時、西南戦争の西郷、佐賀の乱の江藤、自由民権運動の板垣という反新政府の構図が出来上がったと言えそうです。

 政府は、不平士族に担がれることを恐れ、西郷、江藤、板垣を東京に禁足しますが、西郷は鹿児島に帰り、江藤も暴発を押さえるため佐賀へ帰ります。この後、佐賀の乱(1874/2)、神風連の乱(1876/10)、秋月の乱(1876/10)、萩の乱(1876/10)、西南戦争(1877/2)と不平士族の反乱が起きますが、新政府に対する抗議活動は士族に限ったことではなく、地租改正に反対する一揆が各地で頻発し、あたかも革命前夜の様相を呈します。

 佐賀の暴発を押さえに帰った江藤は、ミイラ取りがミイラとなり反乱の総帥に祭り上げられます。政治工作もせず、薩摩、土佐、福岡などの不平士族の反乱を当てにして蜂起しますが、この辺りが江藤の政治眼の無さ、人の良さです。
 一方の西郷は、野に下って西南戦争に担ぎ出されるまで3年間、鹿児島の山野で狩りをし行方をくらましています。西郷は、大久保、岩倉の専制体制は早晩崩壊すると見、政権が危機に瀕しニッチもサッチもいかなくなったとき、東京の連中は自分に助けを求めに来るだろう、その時は条件を飲ませた上で東上し、政府に巣食う汚吏を一掃し維新政権を本来の姿に戻す、という構想があります(司馬遼太郎によると)。維新の最大の功労者であり巨大な存在である自分を十分に自覚し、機が熟すまで身を隠すというのが、鹿児島の山野で狩りをする本意であり、西郷の政治眼です。私学党の暴発(弾薬掠奪事件)を聞いた時「しまった!」と西郷が言ったのは、この構想が崩れたからでしょう。

 佐賀反乱の未確定情報を得るや、待ってましたとばかりに大久保が動きます。大久保は、総督となって佐賀の行政、司法、軍事の権限を一手に握り、大阪鎮台の兵を動員して反乱軍の鎮圧に乗り出します。ここで新政府の実力(実はお粗末なもの)を見せておかないと、反政府運動が連鎖し新政府の崩壊は必定。江藤をスケープゴードに諸国の反乱を押さえ込もうとしたわけです。

 気分だけで蜂起し戦略のない反乱軍は崩壊します。不思議なことは敗北を見越して江藤自らが軍を解散し、側近をつれて敵前逃亡を図ることです。西郷を説得して再起を図るという大義名分の下に江藤は鹿児島に逃げ、鰻温泉で西郷に会い蜂起を促します。が、時期尚早と断られ土佐に至り同志を糾合しようとし、江藤自身が作った警察制度によって捕まります。江藤が意図した国家機構が正常に機能したという皮肉です。

 大久保は、佐賀で江藤を裁きます。江藤の功績を知る三条や岩倉のいる東京を避け、即決で江藤を梟首(晒し首)刑にします。国事犯の極刑は異例のことであり(普通は無い)、武士に対する梟首は徳川幕府でも前例がありません。大久保は、諸国の不平武士への、何よりも薩摩への見せしめのために江藤を梟首にしたかったわけです。「北海の氷山」と形容され、幕末に様々な謀略に携わった大久保一蔵の再来です。
 江藤を極刑にする法律は何処にもなく、法律が無いなら作ってしまえ(でっち上げてしまえ)と、大久保は江藤に梟首を言い渡す裁判長(土佐人、河野敏鎌)を任命します。後世の批判と汚名を覚悟の上で不当な判決を下すわけですから、千円の報償を出したようです。この話が漏れて「千円の首斬り料」と噂がたちます。ことの真偽はともかく、河野敏鎌が即決裁判で江藤を極刑にしたことは事実。千円の話は、そこまでして江藤の頸を刎ねたかった大久保の政略でしょう。この不当な裁判を自覚する大久保は、裁判に皇族を臨席させその権威を借り、判決即日執行し江藤を葬り去ります。

 700頁の長編を面白く読みましたが、論理を重んじ「バカとは話をしない」とうそぶき、仲間を置き去りに敵前逃亡をする江藤新平にどこか違和感を感じます。この違和感は作者のものでもあり、その根拠を「江藤の人生の異様さは維新になってはじめてひろい世間に出てきたことである」とします。貧しい江藤は、家のなかで莨の葉を刻み、火薬づくりの内職をするか、それ以外は藩命によって蟄居させられているかのどちらかでした。35歳で世間に出、5年で司法卿となります。この対人関係の少なさこそが、江籐という人間を決定づけた、人間というものの理解が乏しかった、そうかもしれません。

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司馬遼太郎 歳月(1) [日記(2018)]

新装版 歳月(上) (講談社文庫)  薩長土肥の「肥」の物語です。主人公は「佐賀の乱」の首謀者、元新政府参議、司法卿・江藤新平。
 700頁の長編で、わずか60頁で大政奉還を迎えますから、幕末はホンの少し。物語は、江藤が新政府に出仕し司法卿として辣腕を振るい、薩長閥と闘い佐賀の乱で倒れるまでを描いています。

 肥前佐賀藩の藩主閑叟は、藩軍洋式化のために、反射炉を作り製鉄業を起こし、銃器の製造から蒸気船まで独力で作ってしまう開明派の大名。一方で佐幕派の閑叟は藩士が勤王思想に染まることを恐れ、他藩との交流を禁じる「二重鎖国」の政策をとる保守派。従って薩長土のように志士が育たず、尊皇攘夷が沸騰することもなかったわけです。鍋島藩が幕末ギリギリまで政治に登場しなかったのは、こうした理由によります。

 薩摩藩は組織的に倒幕に参加し、長州藩は藩滅亡の危機を潜り抜け、土佐藩は坂本龍馬などの下級武士が倒幕に参加しますが、藩としては鳥羽伏見の戦いとなってやっと維新の風雲に登場、というそれぞれの経緯があります。佐賀藩がギリギリで登場し、維新の主流の一角を占め得たのは、アームストロング砲などを備えた藩軍の存在です。幕末に犠牲者を出さず、鳥羽伏見では日和見、上野の彰義隊の討伐、会津、北陸、奥羽戦争に遅れて参加しただけの鍋島藩は、四番目の位置しか占められなかったわけです。
 主流派の薩長は新政府に大量の人員を送り込み枢要な地位を独占し、非主流派の土佐は自由民権運動に走り、佐賀は暴発します。維新政府における四藩の力関係がこの小説の主題だとも言えます。

 「二重鎖国」の佐賀藩にも少数ながら勤王派は存在し、「義祭同盟」に依る江藤新平、大隈重信、副島種臣、大木喬任等がそれです。江藤は文久二年(1862)29歳で脱藩し、京都で桂小五郎、伊藤博文等から情報を収集、帰藩して藩主閑叟に「京都見聞」を提出します。江藤は、御目見え以下の下級武士で、父親は永蟄居の身であり食うや食わずの困窮のなかにあります。そんな江藤が、脱藩して京都に潜入し情報収集して藩主に報告するわけです。藩に帰れば処刑です。時代に対する危機感とともに、強い上昇志向が見て取れます。

 江藤は、閑叟の温情で処刑を免れ6年の蟄居を命じられ、幕府が倒れた慶応三年(1867)34歳で藩外交の役人(二十石!)として京都政界にデヴューします。江藤は三条実美に食いこみ、その明晰な論理と佐賀藩の軍事力をバックに新政府の一角に地位を築き、新国家の制度、法律を作る司法卿(大臣)に上り詰めます。その日の食にも事欠く佐賀藩の卑賤の役人が大臣になるのですから、革命の手品を見るようです。(つづく)

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映画 人生スイッチ(2014アルゼンチン西) [日記(2018)]

人生スイッチ [DVD]  原題、Relatos salvajes(西),Wild Tales、いずれも「ワイルドなお話」。アルゼンチンの映画は始めてです。6話の短編を連ねたオムニバス。ストーリーに関連性はありませんが、いずれも復讐をテーマにしたワイルドなショートストーリーで、ブラックコメディー。邦題の「スイッチ」は、いわゆる"スイッチが入る"のスイッチです、名訳!。スイッチの入ってしまった6人の話です。ネタバレではご覧になった時面白さが半減しますからサワリだけ。

おかえし →共通の友人を持つ人が飛行機に乗り合わせる話
おもてなし →偶然親の仇と巡り合ったウェイトレスの話
パンク →ノロノロ運転の車に罵声を浴びせたことで始まる話
ヒーローになるために →駐車違反でレッカー車に車を持っていかれたビル解体人の話
愚息 →轢き逃げした息子を助けようと悪戦苦闘する富豪の話
Happy Wedding →結婚式で、花婿が元彼女を招待していること知った花嫁の話

 何がどうということはないのですが面白いです。憂さ晴らしには最適!。今年上半期に見たDVDのベスト3に入ります。それにしても、受賞歴、ノミネートがスゴイです。

監督:ダミアン・ジフロン
出演:リカルド・ダリン オスカル・マルティネス レオナルド・スバラーリャ

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映画 砂上の法廷(2016米) [日記(2018)]

砂上の法廷 [DVD]  感想の書きやすい映画と書きにくい映画があります。前者はミステリーとB級で、見てもそこそこ面白い。後者は巨匠の名作か駄作で、見てもたいてい面白くない。もっとも例外の無い規則はない、ということですが。『砂上の法廷』はミステリー、それも法廷モノですから書きやすいです。

 原題は”THE WHOLE TRUTH”。弁護士が息子に刺殺される事件が起き、ラムゼイ(キアヌ・リーヴス)が弁護を引き受けます。ラムゼイと弁護士は師弟関係にあり、奥さんのロレッタ(レニー・ゼルヴィガー)、犯人である17歳の高校生マイク(ガブリエル・バッソ)とは親しい間柄。17歳ですから日本なら家裁送りになるはずですが、尊属殺人ですから第一級謀殺事件として審理されることなります。
 マイクは、殺人現場で警官に殺人を自白し、その後一言も証言しないという異例の事件。ラムゼイは証言が得られないまま、事件の真相を手探りで調べながら弁護をする展開となり、それがこの映画面白い点です。犯人は誰か?、マイクは何故証言しないのか?、です。

 奥さんにレネー・ゼルヴィガーを持ってきていますから、これが怪しい。マイクが証言しないのは母親をかばっているから、という推測が容易に成り立ちます。面白いのは、ラムゼイの助手に女性弁護士のジャネル(ググ・ルバサ・ロー)を持ってきた点。ジャネルの特技は嘘を見抜くことで、飛行機のアテンダント、検察医、マイクの友人など次々に法定に立つ証人の嘘を、挙動や証言内容から見抜きます。ジャネルがいることによって、冗長になるストーリーがコンパクトになります。マイク、ロレッタの嘘もラムゼイの嘘さえ見抜いていることなり、原題の”WHOLE TRUTH”がそれを端的にあらわしています。
 突然マイクが証言台に立つことを了承し、そこでとんでもない証言が飛び出します。マイクは父親から性的虐待を受けており、それが殺人の動機だというものです。この証言が決め手となって、マイクは殺人事件の犯人ではあるものの無罪となります。これだけでは映画になりませんから、オチがあります...ナルホド。

 個人的に残念なのはレネー・ゼルヴィガー。『ブリジット・ジョーンズの日記』『シカゴ』『コールドマウンテン』と2000年台初頭は輝いていたのですが、この映画では普通の女優に戻っています。

 ラムゼイは、モーテルを事務所代わりに使い、バイクで法廷に通う貧乏弁護士。同じような設定に、リンカーン(車)を事務所兼足にする『リンカーン弁護士』があります。法廷モノとしてはこちらがお薦め。一番のお薦めはやはりデートリッヒが登場する『情婦』ですね。
 1時間半の映画ですから気楽に見ることができて、そこそこ面白い。暇つぶしとしてはお薦めの一本です。

監督:コートニー・ハント
出演:キアヌ・リーヴス レネー・ゼルヴィガー ググ・ルバサ・ロー

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映画 2010年(1984米) [日記(2018)]

2010年 [DVD]  スタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅(1968)』の続編です。冒頭、この『2001年』が要領よく解説され、前作を見ていなくても付いてゆけるようになっています。残念ながら、モノリス、スターチャイルドの謎解きではなく、アメリカとソ連の一触即発の危機が如何に解決されたかという話です。

 木星の衛星イオの軌道上で漂流するディスカヴァリーが、イオに引き寄せられ2年後に衝突する情報がもたらせられます。HALを再起動してディスカヴァリーを回収し、モノリスの謎を解明すべく、フロイド(ロイ・シャイダー)と、ディスカヴァリーの設計者ウォルター(ジョン・リスゴー)、HALの設計者チャンドラがソ連の宇宙船レオーノフに乗ってディスカヴァリーに向かいます。米ソの政治的危機のなか米ソ共同のプロジェクトが発進するところがミソです。

 木星の衛星エウロパに生命体の兆候が観測され、エウロパには「何かがいる」という謎を解明するためレオーノフから探査機が発進し、探査を拒むかのようにエウロパから地球に向け電磁波が発射されます。続いて木星に浮かぶモノリスに有人探査が行われ、探査機は破壊されモノリスからこれも電磁波が地球に向けて発射されます。地球では、行方不明となっているディスカヴァリーの船長ボーマンが元妻の見ているTVに現れ、「何かが起こる、素晴らしいことが」と妻に語りかけます。ボーマンは、超生命体となってエウロパかモノリスで生存していたことになります。

 ウォルターはディスカヴァリーを修復し、チャンドラはHALを再起動し、ディスカバリーの帰還準備は整います。米ソの緊張関係はついに軍事的衝突に発展し、米ソによるプロジェクトは崩壊寸前。その時HALに、「ここは危険だ、2日以内に立ち去れ」という発信人不明のメッセージが入ります。発信人がボーマンであることが判明し、ボーマン自身がフロイドの前に現れるという怪奇現象が起こり、「許可された」からメッセージを伝えた、「なにか素晴らしいことが起こる」と伝えます。誰から許可を得たのか?、おそらくモノリス、人類を越えた生命体からでしょう。やがて危険の正体が明らかになります。木星に巨大な黒点が現れ、黒点の正体は100万を越えるモノリス(木星のそれは長さ2km)で、木星を侵食するように増殖し続けます。

 危機を感じたフロイドとソ連の米宇宙飛行士は、ディスカバリーとレオーノフを連結しディスカバリーの噴射で脱出を図り、燃料がきれた所でディスカバリーを切り離し(宇宙に置き去り)レオーノフで帰還するという計画をたてます。問題は、ディスカバリーをコントロールするHALが、この自殺行為を実行するかどうか。『2001年』で、HALには人工睡眠に入った科学者3人の生命維持装置を切り、船外活動の副船長を殺害しています(これは、異なった命令が出されたため、HALが統合失調症を起こしたと説明されています)。HALは全員が命を失う危険にさらされていること理解し、この自分を葬る命令を実行します。
 切り離されたディスカバリーのHALに、ボーマンからメッセージが届きます。以下のメッセージを繰り返し地球に向けて発信しつづけろと。そのメッセージとは、

この世界は全てあなた方のものだ ただしエウロパは除く エウロパへの着陸を試みてはならない 全ての世界を皆で利用するのだ 平和のうちに利用するのだ

 増殖したモノリスによって木星は縮小自壊し爆発します。ボーマンのメッセージと木星の爆発によって、米ソの軍事危機は終息し世界に平和が訪れます。モノリスが人類を絶滅の危機から救ったことになります。爆発した木星は、なんと第二の太陽となって輝き続けます。人類を見守る存在がここにいるとい警告なのでしょう。
 続編としてそれなりに辻褄は合っていますが、『2001年』の衝撃に比べるモノ足りません。人類は人類を越えた存在によって見守られている、というよくある映画です。

監督:ピーター・ハイアムズ
原作:アーサー・C・クラーク
出演:ロイ・シャイダー ジョン・リスゴー ヘレン・ミレン

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