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高村薫 レディージョーカー 毎日新聞社 [日記(2007)]

レディ・ジョーカー〈上〉

レディ・ジョーカー〈上〉

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 1997/12
  • メディア: 単行本


 不鮮明な理由、あてどの無い怒りや苛立ちにより逸脱してゆく人間を、高村薫は好んで描く。自分の退屈な日常であったり、組織や社会の規範からの逸脱であったりする。これは何も、犯罪を犯す人間だけの話では無い。

 旋盤工上がりの69歳の薬局店主をリーダーに、在日二世の信用金庫職員、長距離トラックの運転手、千分の一ミリを削り出す旋盤工、おまけに現職の刑事まで加わった競馬仲間5人が、ビールを人質に巨大ビール会社を脅して金を取る。グループ名は「レディ・ジョーカー」。ジョーカーは5人それぞれが自分の人生でひいた「ババ抜き」のジョーカーであり、ババを先送りしながら誰も損をしないマネーゲームの「ジョーカー」であり、ビール会社がひく「ジョーカー」である。プロフェッショナルがグループで犯罪を企てるピカレスクロマンはよくあるパターンだし、グリコ森永事件を下敷きに「黄金を抱いて翔べ」のリメイクと思って読んでいると、とんでもない。これはまぎれもなく「マークスの山」「照柿」に続く合田雄一郎シリーズ3作目である。

 ミステリーでは通常、犯人と警察に話の焦点が当たり、被害者は動機との関係で語られる場合が多い。本書では、犯人(レディ・ジョーカー)、警察(合田雄一郎)に加え被害者(ビール会社社長・城山恭介)が主人公として描かれる。物語りは、社長を誘拐され身の代金を請求されるビール会社、警察、事件を追う新聞社と多面的に語られ、事件は単なる営利誘拐事件から株価操作、企業脅迫を誘発し、地下金融、疑獄事件へと広がりを見せる。作者は、ビール会社、警察、新聞社の組織とそれを構成する個人を丹念に描く。描くのは、組織を守ろうとする求心力であり、その組織に牙をむく犯罪・反逆を支える個人のほの暗い情念である。そして、犯罪・反逆は潰え潰えないまでも個人に深い傷を残す。高村 薫の「罪と罰」の物語であろうか。

事件は解決をみるが救いの無かった前二作の結末に比べ、「レディージョーカー」で作者は作者らしくないファンサービスをしてくれる。
「マークスの山」で活躍した森巡査部長<<お蘭>>は八丈島に移住し、結婚して子供が生まれたらしい。 誘拐犯のリーダーとも云うべき69歳の薬局店主・物井は、レディジョーカーの由来となった重度障害者「レディー」と青森の郷里で静かな余生を送っている。 合田雄一郎は神崎一課長の推薦で昇格試験を受け本庁国際捜査課警部に昇任している。ということは、シリーズ第4作は無いということなのだろうか。  高村 薫は、今頃せっせと本書の全面改稿に励んでいるのではないか思う。 高村ワールドとも呼べる世界が更に広がりを見せる →☆☆☆☆☆


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