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トム・ロブ・スミス チャイルド44 [日記(2009)]


チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

  • 作者: トム・ロブ スミス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/08/28
  • メディア: 文庫


 2008年に評判となったミステリーです。映画化も決まっているようで、監督が『ブレードランナー』『エイリアン』のリドリー・スコットということです。これは読まないわけにはいきません(動機が不純?)。

 1933年、ソ連ウクライナ
 幼い兄弟が森に猫を狩りに行き、兄が行方不明となります。

『おまえの兄さんはもう死んでしまった。今頃はもう誰かに食べられている。わかるかい?おまえたちが猫を狙ったように、誰かがおまえたちを狙ってたのよ。わかるかい?』

弟に母親が諭すショッキングな言葉で幕は開きます。いわば、これが本書の主旋律です。

【スターリン体制】
 1953年、密告と裏切り、あるいは積極的沈黙が我が身を守る術であったスターリン時代という背景が、本書に緊張感を生んでいます。スターリンの死去は1953年3月5日ですから、スターリン体制の最後の年です。スターリニズムが教条主義の同義語として使われたように、ソヴィエトないし共産党が唯一絶対の正義であり、反体制の烙印を押さると、処刑か強制収容所が待っているという恐怖政治の時代です。スターリンの時代に国家の名において処刑された人々の数は、数百万人にのぼると云われています。本書の中で語られているジョークがこれを端的に物語っています。

『夫婦がベッドで寝ていると、ドアを鋭くノックする音がした。最悪の場合を考えて、ふたりは起きると、さよならのキスをした。
愛してるよ、おまえ。
愛してるよ、あなた。
そうして別れを告げ合い、ドアを開けた。すると半狂乱の隣人が立っており、廊下には煙が充満し、猛火が天井を舐めていた。夫婦は安堵の笑みを交わし、神に感謝した。
なんだ、ただの火事じゃないか。』

【国家保安省 捜査官】
 主人公は国家保安省(後のKGB)捜査官レオ・デミドフ。いわば反体制を取り締まる側の人間が主人公ですが、スターリン体制での恐怖は一般人民と変わりません。捜査上の失敗や同僚の讒言で、捜査する側とされる側、何時立場が入れ替わるか分からない綱渡りの状況で捜査をすることとなります。

『ひとりのスパイに逃げられるより、十人の無実の人間を苦しめるほうがどれほどかましなことだ。』

 という捜査の原則通り、レオは部下の息子の死を事故死として葬り(家族は殺人を主張しますが、共産主義国家ソヴィエトに犯罪は無いのです)、無実と思われる獣医をスパイとして逮捕します。そしてレオに捜査する側とされる側の立場の逆転が訪れます。
 権力に迎合するか真実を語るか、捜査官として人間として究極の選択に迫られます。(ネタバレなので書きませんが)レオは真実と信念を取った代償を支払うこととなります。

【レオとライーサ】
 本書が他のミステリーと一線を隔しているのは、レオとその妻ライーサの関係です。レオは第2次世界大戦の(作られた)英雄で、国家保安省の捜査官。反国家的犯罪を捜査し犯人を逮捕する立場にです。ソヴィエト人民の中では優越的地位にあり、国家保安省に睨まれれば、軽くて強制収容所、多くは処刑の憂き目にあいます。その国家保安省の捜査官がライーサを見初め結婚します。レオが愛の上に築かれた結婚生活だと考えていたものが、一連の事件で脆くも崩れてゆきます。ライーサは、愛によってではなく、恐怖によって結婚を応諾した事実を告白します。国家保安省の捜査官であるレオの求婚を断った時の報復に恐怖したわけです。権力というものは、それを振るう側にも悲劇をもたらすという側面を見事に描いています。
 レオが国家保安省の捜査官を罷免され地方の人民警察巡査長に降格されて、レオとライーサの立場は初めて対等となり、ふたりの本来の関係が築かれます。本書は、そうした意味でレオとライーサの愛の物語でもあります。

 『チャイルド44』はミステリーですから、殺人事件が起こり、普通にその捜査と犯人との対決があります。スターリン体制のソヴィエト、という特殊な時代と地域で展開される殺人事件とその捜査と云うことに、着想の妙があります。プロットも巧妙、登場人物の造形も確かで、2008年度の『このミス』ベスト1、『週刊文春ミステリーベスト10』2位も十分納得できます。
 映画化の話ですが、これは期待が持てます。恐怖政治、KGB、猟奇的な殺人、逃亡に男女の愛と見せ場はたくさんあり、登場人物もレオとライーサはもちろんのこと、敵役のワシーリーに地方の人民警察署長ネストロフと個性的で多彩です。これをリドリー・スコットが乾いたリアリズムで描くとどうなるのでしょう、期待が膨らみます。リドリー・スコットは未だアカデミー賞を取っていませんが、これで取って欲しいと思いますね。

 →映画 チャイルド44 森に消えた子供たち
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コメント 2

Betty

この小説は印象的でした。
ミステリーと時代小説の絶妙なブレンド。登場人物の描写もうまくて情景や恐怖を感じさせる力強い文章にやられました。
by Betty (2009-04-23 12:54) 

べっちゃん

『チャイルド44』は久々に一気読みのミステリでした。いやぁ面白かったです。次作 The Secret Speech が4月刊行だそうで、そのうち日本でも刊行されるでしょうね。
by べっちゃん (2009-04-23 20:15) 

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