So-net無料ブログ作成

読書 ボストン・テラン 音も無く少女は [日記(2011)]

音もなく少女は (文春文庫)
 1950年、NYブロンクスで生まれた少女の25年間を描いた小説です。2010年の「このミス」第2位ですが、ミステリと云うにはどうも勝手が違うようです。確かに殺人は起きますが、殺人に至る25年間が小説の主題です。原題は“woman”、主な登場人物も女性で、女性の強さ優しさ連帯が描かれます。「女、姉妹、友達」というフレーズが繰り返し登場し、聾者の主人公イヴ、イヴの母クラリッサ、二人を助けるドイツ移民のフランの三人の“woman”の物語です。

 女性の物語ですが、当然男性も登場します。ところが、登場する男性はどれもこれもどうしようもないクズ、クズでないなら小説の背景。イヴの父親ロメインは、幼いイヴを隠れ蓑にして麻薬の売買。もうひとりの聾者ミミの父親ボビーはイヴの恋人を殺します。この物語において男とはどういう存在なのか、フランはこう語ります、

子宮を摘出されたのよ。それもとても慎重とは言えないやり方でね。人種衛生学。男たちが暇なときに考えた些細なことよ。

 フランは、聾者の恋人の子供を宿し、当時のナチの断種法によって強制的に堕胎されたという過去を持っています。アメリカに逃れ、キャンデーストアとささやかな不動産を相続し、イヴとクラリッサと出会い、[フラン {クラリッサ (イヴ) クラリッサ} フラン] という女の世界が形成されて行きます。フランは18歳でナチに恋人を殺され、クラリッサはロメインによってDVの末殺され、イヴもまた恋人チャリーを殺されます。
 とストーリーを辿っても何ほどの意味もありません。ここにあるのはたぶん、フラン(あるいはジェンダー)の再生の物語なんだろうと思います。

 イヴとフランをつなぐkeyがカメラ。耳の聴こえないイヴは、周囲を映像に切り取ることで世界を認識し、フランの部屋には聾者の恋人を自ら撮った写真が何枚も飾られています。

 M2は中古品だったが、それでもライカだった。・・・フランはM2に露出計とズミクロン50ミリを備え付け、すべてのスピードでシャッターを押して、遅れのないことを確かめた。さらに、レンズの中に曇りはないか、菌がついているようなことはないか調べた。通りに出て、距離計に微妙な狂いはないかも確かめた。

 イヴのためにフランはライカを買います、これですね。
 
ライカM2.JPG
 
 気になったのが、翻訳です。
 
 ふたりは似ていた、フランとクラリッサは。ふたつの女の体だった。同じ心としての、ほかの者たちは自らの悪魔をすでに祓った場所としての、ほかの者たちは自らの不運や虐待を贖った場所としての、切られた板としての、給仕された料理としての、便座としての女だった。

チャイルド44 グラーク57 卵をめぐる祖父の戦争 などベストセラーの翻訳家なので、手抜きはないと思うのですが、読んでいて「つっかえる」日本語です。こなれた日本語、原作のハードボイルドな雰囲気を伝える日本語、後者なんでしょうか。
 
 余談ですが、本書の二本での成功は、タイトルとカバーデザインが一役買っているように思います。拳銃をライカに置き換える方が、本当はこの小説にふさわしいのですが。

タグ:読書
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0