So-net無料ブログ作成

お手軽 簡単 読書感想文 門井慶喜 銀河鉄道の父 [日記(2019)]

銀河鉄道の父 第158回直木賞受賞  「読書感想文」のシーズンなので、1編追加。先日読んだ『銀河鉄道の父』です。原稿用紙だいたい3枚です。以下読書感想文本文。

 「銀河鉄道」は宮沢賢治の童話ですから、この小説の主人公は賢治ではなく、賢治の父・宮沢政次郎です。政次郎は、岩手県花巻の質屋の長男として明治7年に生まれ、父親から“質屋には学問は必要ねぇ”、と小学校卒業と同時に家業の質屋を継がされます。政次郎は質屋のほか古着を扱い花巻でも有数の資産家となります。“家長たるもものは、常に威厳を保ち笑顔を見せず、嫌われものたるを引き受けねばならない。商家が潰れずに生き残るためには、家そのもを「組織」としなければならない。生活とはするものではなく、作るものだ”、という家父長制の残る明治の父親として描かれます。

 政次郎は一家に君臨する家長かと言うと、賢治が赤痢にかかると、感染も恐れず病棟に泊まり込んで看病するという愛情を注ぎます。”これからの質屋も学問が要る”、と父親の反対を押し切って賢治を盛岡中学に進学させます。一方の賢治は、質屋という家業を嫌い中学を卒業しても家でブラブラ。たまに帳場に立っても鎌一丁に3円も貸す有様で商売センスはゼロ。結局政次郎は賢治に盛岡高等農林学校への進学を認めます。高等農林学校に入っても同人誌を発行し、洋書を買うの何だのと政次郎から金を引き出す、ある意味ドラ息子。政次郎の懐を当てにして製飴事業などを夢見み、堅実で常識人の政次郎はこれを一蹴。反対されると、賢治は日蓮宗の宗教団体に入信し、浄土真宗の熱心な門徒であるで政次郎と衝突し東京に家出します。
 妹トシが結核で倒れたため賢治は花巻に帰り、トシは亡くなります。この時、政次郎は縁起でもないという家族の反対を押しきってトシの口から遺言を聞き取ります。
”私は家長だ。死後のことを考える義務がある。トシの肉が灰になり、骨が墓におさまってなお家族がトシの存在を意識するには、位牌では足りない。着物などの形見でも足りない。遺言という依代がぜひ必要なのだ。
それは唯一、トシの内部から出たものである。家族をときに厳しく律するだろう、ときに優しくいたわるだろう。・・・子が孫を生み、孫が曾孫を産んでも受け継がれる。肉や骨はほろびるが、ことばは滅亡しない”
 我が子が死ぬその瞬間に父親として遺言を聞き取るという行為には、政次郎の家長としての強い決意がうかがえます。賢治が37歳で亡くなる時も、政次郎は賢治から遺言を聞き取っています。

 政次郎は、人に嫌われる質屋を営み古着を売り、次女三女を嫁がせ、次男・清六を立派に後継者に仕立て上げ、 長女トシを手厚い看護の末看取り、「宮沢賢治」を育てあげます。家長の責務を立派に果たしたと言えます。『銀河鉄道の夜』の著者よりも、「銀河鉄道の父」こそが、明治・大正・昭和の日本国を支えた国民だったわけです。「宮沢賢治」という文学史に記される「偉人」が出現するその陰には、こうした「父親」がいたということです。

nice!(8)  コメント(0) 

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。