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コニー・ウィリス 航路(2003ソニー・マガジンズ) [日記(2019)]

航路(上) (ハヤカワ文庫SF) 航路(下) (ハヤカワ文庫SF)  臨死体験(NDE Near Death Experience)の謎を追う物語です。臨死体験(以下NDE)は、死に際に身体から意識だけが抜け出す体外離脱、トンネルを抜け光溢れる世界に至り、人生が走馬灯のように甦り、 亡くなった血縁者や天使と出会い、地上に帰るよう言われ蘇生するというお決まりの体験です。
 このNDEを、あの世の存在、魂の不滅などの証拠と考えるか、脳に現れる生理的な現象に過ぎないと考えるという二つの見方があります。NDEは心肺停止から蘇った人の体験であり、死んだ人がNDEを体験したのかどうかは不明。死の臨む全ての人間に起こる現象なのか、一部の人にのみ起こる現象なのか、真実は謎。

 『航路』では、来世の存在を主張するマンドレイクとNDEは側頭葉刺激と考える医師のリチャードがその二派の代表です。マンドレイクは誘導尋問によって来世存在の証言を引き出し、自説に合うNDE事例を集めベストセラーをものにし、リチャードは、臨死体験は側頭葉刺激によるサバイバル・メカニズムではないかと考え、薬物を使って被験者をNDEに導き側頭葉を刺激し脳をスキャンしてその謎に迫ろうとします。
 認知心理学者ジョアンナは、NDEには心肺停止の人間を蘇生させるカギがあると考えリチャードの実験に加わります。
 リチャードの被験者が足りなくなり、ジョアンナは自ら被験者となってNDEを体験します。このあたりから物語が動き出し、面白くなります。ジョアンナは、疑似NDEの実験で暗い通路通って光にあふれる世界に出ます。何とそこは天国ならぬ、1912年4月15日にニューヨークに向かうタイタニック号!。これ"タイム・トンネル"?。タイタニックの遭難では乗員乗客1500人が死んでいますから、タイタニックはまさに死を運ぶ船、NDEの舞台としては最適。ところが、病院で死亡した人物と存命の認知症を患った高校時代の英語教師とタイタニックで出会ったことで、様子が違ってきます。ジョアンナの乗るタイタニックと歴史上のタイタニックは細部において違いがあり、"タイタニック"は、ジョアンナが英語教師の授業で刷り込まれた記憶から構築された死と再生のメタファー(イメージ)だったことが明らかになります。何故タイタニックなのか?、ジョアンナにとって、数多くの生と死のドラマが生まれた20世紀最大の海難事故がNDEの舞台に相応しかったのでしょう。

 NDEとタイタニックの謎に挑むジョアンナは、病院のER(救急救命室)でドラッグで錯乱した少年によって刺殺されます。第三部を残してヒロインが姿を消す!、ジョアンナは蘇生するのか?。ジョアンナはNDEの謎を解き、その答えをリチャードに伝えようとして事切れます。第三部は、このNDEの答えを求めてリチャードが奮闘するミステリーとなります。読者は第二部でこの答えが明かされています。答えはダイタニックの発した救難信号SOS ・・・ ーーー ・・・。
 死にゆく脳が、前頭皮質に向かって、扁桃体に向かって、海馬に向かって、だれかが救助に来てくれること願ってSOSを発信し、その救難信号は、死に臨んだ人間に、体外離脱、トンネルを抜け光溢れる世界、亡くなった血縁者や天使との出会いといったイメージ(夢)を引き起こすわけです。ジョアンナはこのSOSによってタイタニックの夢を見、災害マニアの重い心臓病を抱えた少女はサーカスで起こった火災事故の夢を見る、これがNDEの正体だったわけです
 上巻419ページ、下巻431ページの長編ですが、一気に読んでしまいます。夏の夜の怪談より面白いです。

タグ:読書
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